導入事例インタビューは、自社製品やサービスを導入した顧客を取材し、記事や動画にまとめる施策です。導入前の課題、製品やサービスの採用の決め手、導入後の成果を示し、読者に製品やサービスの価値を伝えます。
BtoBでは投資額も責任も大きくなる傾向にあり、複数の担当者が慎重に導入を検討するため、導入事例インタビューは一つの判断材料になります。
また、導入事例インタビューは短い推薦コメントと異なり、課題から成果までを具体的に描くことが可能です。具体的な実績とストーリーを組み合わせることで、読者の不安を減らし、導入を前向きに検討してもらえるコンテンツになるでしょう。
導入事例インタビューには、3つの代表的な形式があります。
これらの形式を、目的や読者層に合わせて選びましょう。それぞれの形式のメリットと使い分けについては、以下で解説します。
Q&A形式(対談形式)は、自社と顧客の担当者が会話形式で内容を展開する構成です。双方のやり取りによってテンポよく読めるのが特徴です。インタビューの雰囲気が伝わりやすいため、クライアントとの関係性のよさを強調しやすいでしょう。
また、基本的には文字起こしした原稿を整えていく書き方になるため、後で紹介するルポ形式(三人称形式)よりも執筆しやすく、「執筆に慣れていないが導入事例を内製したい」という場合に適しているといえます。
▼例
|
Q:サービス導入前の不安はありましたか? A:操作が複雑なのではないかという不安がありました。しかし、丁寧にサポートしてもらえたので思ったほど苦戦しませんでした。 |
ルポ形式(三人称形式)は、記者やライターが第三者目線で取材内容を整理して伝えるスタイルです。インタビュー対象者の発言を引用することで説得力を持たせつつ、地の文で状況や意図を補足することで、情報を整理して読者に伝えられます。
この形式は、たとえば複数部門が関与しているような場合に適しているといえます。複雑な背景や支援内容を整理することで、読者の理解を深めるのに役立つでしょう。
▼例
|
導入前は、毎月のレポート作成に10時間以上を費やしていたといいます。「Excelで一つひとつ手作業で対応していたので、集計ミスも発生していました」と経理部の佐藤氏。そこで同社は、レポート自動化ツールの導入を決定しました。導入から1カ月後には、作業時間が半分以下に削減されました。 |
導入事例インタビューを動画形式でまとめる方法もあります。動画形式は、視聴者に視覚と聴覚の両方で訴えかけるため、顧客の熱意や信頼感を自然に伝えやすいといえます。特にBtoBにおいては第三者からの客観的な評価が購入検討の後押しとなる傾向にあるため、顧客の声をよりリアルに伝えて購入につなげたいときに適しているといえるでしょう。
また、動画では、製品画面や現場の様子を映像で紹介できるため、利用イメージや成果がリアルに伝わるのがメリットです。たとえば、「2時間かかっていた検査作業を30分短縮」など具体的な成果や実演している様子を映像で示すと説得力が高まります。
動画制作時は、事前に撮影許可を取り、視聴者の関心を保てるよう3〜5分程度にまとめるのが望ましいでしょう。
ここでは、導入事例インタビューの進め方をステップごとに紹介します。
3つのステップそれぞれを丁寧に進め、魅力的な導入事例インタビューを作成しましょう。
導入事例の信頼性を高めるには、成果が見えている顧客から着手するのが効果的です。導入後一定期間が経過して、売上やコスト削減に変化が見られるケースを優先するとよいでしょう。業種や規模は、自社のターゲット層に近い企業を選ぶと共感を得やすくなります。
インタビューの依頼メールや電話では、顧客にとってのメリットを端的に伝えましょう。
たとえば、「業界への貢献として貴社を紹介したい」「微力ながら認知拡大にも寄与いたします」といった社会的価値やメリットを示すと協力を得やすくなります。
また、候補となる顧客を選定するうえでは、営業部門やカスタマーサクセスチームと連携し、満足度の高い顧客を抽出することが役立ちます。
事前準備はインタビューの品質を左右します。理想としては、インタビュー当日の1~3カ月前から取り組むことをおすすめします。
特に、機材の手配や撮影の許可など、当日になってからでは対処が難しいこともあります。準備項目をチェックリストにまとめて、もれなく準備できるようにしておきましょう。
事前準備としては、以下が挙げられます。
事前準備の詳細について、一つずつ見ていきましょう。
取材日程を決めるときは、顧客の予定を最優先にします。候補日は複数提示し、午前・午後どちらも選べるようにすると日程が合いやすくなります。場所は顧客オフィス・自社オフィス・オンラインの3つを事前に用意し、顧客の希望や撮影の有無などに合わせて切り替えましょう。
日程が決まったら、1週間前と前日にリマインドメールを送り、当日の緊急連絡先も共有します。Googleカレンダーの招待機能や日程調整ツールを使うと、参加者全員の予定を確認しやすくなります。
取材の案内メールにはアクセス方法・持参物・駐車場の有無などを盛り込み、オンラインの場合は前日に接続テストをしておくと安心です。
参加者と役割を事前に決めておくと、インタビューを進めやすくなります。
自社チームは、聞き手と記録役で構成するのがおすすめです。記録役がいることで、聞き手が話を聞くことに集中しやすくなります。その他、補助としてオブザーバーを加えるのもよいでしょう。ただし、顧客側がリラックスできるよう、自社チームの人数は多くなりすぎないようにします。
顧客チームは、導入を決定した担当者・実際に使用するメンバー・技術面を理解している担当の3名が望ましいです。それぞれの役職や関与範囲を事前に確認し、発言内容にあわせて質問レベルを調整してください。
参加メンバーと役割が決まったら、インタビュー前に顧客へ共有します。顧客が参加者を把握できると、当日の緊張が和らぐでしょう。
インタビューの所要時間は60〜90分程度が標準です。短すぎると深い情報が取れず、長すぎると集中力が切れやすくなります。たとえば、以下のような構成が考えられます。
事前に時間割を顧客へ共有し、優先順位が高い項目を確認しておきましょう。当日は時間を意識しつつ、重要度の高い部分に集中するとインタビューの取りこぼしが少なくなります。
インタビューで写真や動画を撮ったり、録音したりする場合は、事前に許可を取りましょう。使用目的を明確に伝え、可能であれば書面で了承を得ておくと安心です。
あわせて撮影環境も事前に確認しておくのが望ましいです。明るさ、背景の見栄え、周囲の音などは当日になってからでは調整が難しいため、事前にチェックしておくことをおすすめします。条件が合わない場合に備え、別室の確保や補助ライトの準備なども検討しておくとよいでしょう。
インタビューの記録をしっかり残すためには、事前に機材の確認をしておくことが重要です。充電や容量が十分か確認しましょう。確認における重要事項をチェックリストにまとめ、2人体制でダブルチェックするとより確実です。
また、録音機材はメイン(ボイスレコーダー)とバックアップ(スマートフォン)の二刀流にするなど、故障や電池切れに備えておくと安心です。
インタビューの質を高めるには、あらかじめ内容を整理したヒアリングシートを作成し、顧客へ共有することが有効です。ヒアリングシートに盛り込む項目としては、たとえば以下が挙げられます。
各項目に3〜5つの質問を用意し、インタビューの1週間程度前までに顧客へ送付します。こうすることで、顧客が回答を準備しやすくなるうえ、質問の優先順位も共有できるため、当日の進行がスムーズになります。
インタビュー前日になったら、顧客にリマインドのメールを送りましょう。メールには、日時・場所・所要時間・持ち物・参加者の確認事項・緊急連絡先などを明記します。
リマインドメールは、テンプレート化しておくと次回以降の対応がスムーズです。
また、当日の受付対応の担当者や会議室の鍵の場所、撮影時の動線やインタビューの段取りなども再確認しておくと安心です。
インタビューの実施時は、あらかじめ決めておいたスケジュールに沿いつつ、柔軟な対応により顧客から最大限の情報を引き出すことが重要です。
まず、開始時は軽いアイスブレイクから始め、顧客の緊張をほぐします。アイスブレイクの後は、録音・記録の許可を取ることを忘れないようにしましょう。その後、「本日はお忙しい中、お時間をいただきありがとうございます。まず簡単に、普段のお仕事内容について教えていただけますか?」といった軽い質問から入り、自然な会話の流れをつくり出します。
本格的な質問では、「導入前は具体的にどのような課題がありましたか? たとえば数値で表せるものがあれば教えてください」など、具体性を求める質問もします。
インタビュー中は顧客の表情や反応を注意深く観察し、話が盛り上がっている重要な話題については深掘りし、時間配分を柔軟に調整することがポイントです。重要な発言については「今の○○というお話、とても興味深いです。もう少し詳しく教えていただけますか?」と積極的に深掘りし、価値の高い情報を引き出しましょう。
ここでは、導入事例インタビュー実施後の具体的な作業プロセスについて紹介します。
インタビューを実施して満足せず、コンテンツとして仕上げ、無事に公開するまで丁寧に進めていきましょう。
インタビュー後は録音データを文字に起こし、編集・校正します。60分の収録なら、文字起こしには約2〜3時間、編集と執筆には少なくとも5〜6時間を見込んでおくとよいでしょう。文字起こしには、文字起こしツールを使うという方法もあります。
記事は基本的に「課題→解決策→結果」の流れで構成し、「売上が3カ月で40%増加」などの定量的な成果と担当者の感想を織り交ぜましょう。専門用語は使いすぎず、要点を絞ってまとめると、読者に理解してもらいやすい文章になります。
下記の記事で問い合わせが増える導入事例の構成について詳しく解説しています。導入事例の書き方についてお悩みの方はぜひ参考にしてみてください。
原稿ができあがったら、まず社内で内容をチェックします。広報やマーケティングの担当者が目を通し、内容に問題がないか確認しておきましょう。
その後、顧客にも原稿を送り、内容を確認してもらいます。修正の要望があれば適宜対応しましょう。
最終的な承認が取れたら、公開の準備に入ります。自社サイトへの掲載に加え、SNSでの紹介や営業資料への活用、メールマガジンでの配信など、複数の手段で広く届けるとより効果的です。
公開後は、閲覧数や問い合わせ数、商談につながった件数などを確認し、導入事例の成果を振り返ると次の改善につながります。
導入事例コンテンツを作成した後は、以下のように活用することで成果の拡大を図りましょう。
商談時に同業種や規模が類似した企業の事例を提示し、リード獲得と成約率の向上を狙います。
Web記事・SNS・メール・動画など、形式を変えて発信し、チャネル特性に応じた手法で拡散力の向上を狙います。
ページビュー数・問い合わせ数・CVRなどの指標を分析し、ABテストや定期的な見直しを行い、内容の精度を高めます。
上記のように、導入事例を多角的かつ継続的に活用することで、制作の効果を最大限に引き出せるでしょう。
導入事例インタビューでは、企業の課題や導入によって得られた成果、今後の展望まで一連の流れを把握できるよう、質問をあらかじめ設計しておくことが重要です。そこでここからは、インタビューで聞くべき質問をカテゴリー別に整理して紹介します。
読者が共感できるよう、導入前の課題について具体的に聞きましょう。業務の流れやコスト、時間、品質などの具体的な影響を数値やエピソードとともに聞いておくと、読者の共感を呼び興味を引きつけるストーリーを構成しやすくなります。
▼質問テンプレート
|
導入の決め手に関する質問の狙いは、他社と比較した強みや意思決定の背景を引き出すことです。こうして引き出した情報は、見込み顧客がサービスや製品の導入を検討するときの判断材料になります。
▼質問テンプレート
|
導入後の成果を聞く際は、数値で示せる結果と、現場の感想の両方をバランスよく把握することが重要です。
▼質問テンプレート
|
数値について聞く際は、「ざっくりで構いません」と一言添えると、回答のハードルを下げられます。「効率が上がった」だけでなく、「月間工数を30%程度削減できた」といった具体的な数値を引き出すことで、導入事例に説得力が生まれます。
導入企業に、自社をおすすめしたい企業について尋ねることで、サービスの対象ターゲットが浮き彫りになります。
たとえば、「業務効率化に課題を感じている中小企業」「DXの取り組みを始めたばかりの企業」「リソース不足でシステム運用に手が回らない企業」など、具体的な企業像を聞くことで、読み手に「自社にも当てはまりそうだ」と感じてもらいやすくなります。導入を検討している担当者の背中を押すことにもつながるかもしれません。
また、「こういう企業には合わないかもしれない」といったコメントも、リアルで信頼性のある情報として受け取られやすいでしょう。
▼質問テンプレート
|
顧客に今後の活用方針や期待を語ってもらうことで、読者(=見込み顧客)が導入後の利用イメージを描きやすくなります。具体的なイメージを持ってもらうことで、導入意向を後押しできるかもしれません。
また、あると嬉しい機能や改善点などもインタビューでヒアリングできると、製品改善やサポート体制のヒントを得られるでしょう。
▼質問テンプレート
|
ここでは、導入事例インタビューを成功させるためのコツについて紹介します。効果的なインタビューを行うには、以下を意識しましょう。
インタビューは事前説明から始めましょう。開始時に目的・所要時間・進行スケジュール・録音や撮影の範囲、情報の取り扱い方法などを伝えると、相手の不安を軽減することにつながります。
また、インタビューに慣れていない顧客の場合、「話したことがすべて記事になる」と身構えてしまい、必要最小限の回答しかしてくれない可能性があります。それを避けるには、事前説明で記事公開前に修正ができることを伝えるとよいでしょう。
深い情報を引き出すには、質問順序の工夫と深掘りが重要です。最初は、企業概要や担当者の役割といった比較的話しやすい内容からはじめると、相手も話しやすくなります。
そこから、導入前の課題、選定までの経緯、導入時の体験、導入後の成果、そして今後の展望へと順を追って話を広げていきましょう。そうすることで、相手も整理しながら話しやすくなるでしょう。
BtoBの事例では特に、具体的な数値の情報が記事の信頼性と説得力を左右します。以下の項目を意識して質問しましょう。
仮に即答が難しい場合は「大体で構いません」と前置きし、後日メールで具体的な数値を確認するのも有効です。
このように、定性的な変化だけを聞くのではなく、数字を引き出す工夫が必要です。
導入事例インタビューでは、数字だけでなく現場のエピソードが読者の共感を呼ぶ場合もあります。たとえば「導入前は毎月の集計で徹夜が続いていた」「設定が簡単で初日から使えた」といったエピソードです。
インタビュー中にそのようなエピソードの話題が出たら、「そのときどう感じましたか?」「周囲の反応は?」など、感情や体験に触れるような質問で深掘りします。そうすることで、意外な成果や本音を引き出せるかもしれません。
話しやすい雰囲気をつくるには、冒頭で軽い雑談をしたり相槌をうったりすることが有効です。
話を進めながら、頷いたり、「なるほど」「それは大変でしたね」「素晴らしい成果ですね」などと相槌をうったりすると、相手は「話を聞いてもらえている」という安心感を抱き、話しやすくなるでしょう。
ここでは、導入事例インタビューの実施において、担当者が悩みやすいよくある質問と回答をまとめました。
よくある疑問を解消したうえで、導入事例インタビューに臨みましょう。
顧客が導入事例への協力を断る背景として、「準備に時間がかかる」「メリットが不明確」といった理由が考えられます。その対策として、以下が挙げられます。
顧客企業には、PR効果や従業員のモチベーション向上といった具体的価値を簡潔に伝えます。たとえば「御社事例として広く紹介可能」と明記すると協力してもらいやすくなるでしょう。
映像や動画を顧客側でも活用できるようにすることで、相手のPRにも貢献できる旨を説明すると、好意的に受け取られやすいです。
法務部門や広報部門への確認が手間になる場合は、承認依頼のテンプレートなどを提供します。そうすることで、顧客側の心理的負担を減らせます。
社名が非公開でも、導入事例は十分に活用できます。たとえば「製造業(従業員500名規模)」のように、業種や企業規模、導入前の課題や業務内容を具体的に記載することで、読者が自社に近いケースかどうかを判断しやすくなります。
成果が数値で語られていない場合や具体的な数値の公表がNGの場合でも、導入の効果をある程度伝えることは可能です。
たとえば「問い合わせ対応がスムーズになった」「現場の混乱が減った」「お客様からのクレームが減った」といった定性的な変化でも価値があります。
こうした表現に説得力を持たせるには、「導入前はどんな状態だったのか」「変化が現れたのはいつ頃か」「社内の反応はどうだったか」といった具体的なエピソードや背景とセットで伝えることがポイントです。
インタビューで十分な深さの情報を得られなかった場合、録音内容を再確認して見落としを洗い出し、可能であれば「なぜ」「どのように」を意識した追加質問をさせてもらえないか、顧客に依頼してみましょう。再度インタビューをするとなるとハードルが高くなってしまうため、追加質問の対応はメールでの文面取材も検討します。
また、業務に関する資料やフローなどがまとめられた図などの提供をお願いすると、情報を具体的にまとめやすくなります。
導入事例制作を任せるか自社で行うかは、社内の体制や目的、制作頻度により判断しましょう。
内製には、社内にノウハウが蓄積するというメリットがあります。しかし、導入事例制作の体制を整えるためのコストがかかります。
一方、外注すれば、内製の体制を整えるためのコストがかからず、プロの手を借りて高品質な記事や動画をつくれます。しかし、外注にもコストはかかりますし、社内にノウハウがたまらないというデメリットもあります。
このように、内製にも外注にもそれぞれメリット・デメリットがあるため、社内の体制や目的、制作頻度に合わせて選ぶことが大切です。
また、調査・インタビューのみ内製し、記事やデザイン部分を外注するハイブリッド型という選択肢もあります。
限られた時間内で必要な情報を収集するには、インタビュー前にスケジュールを決めておくことが有効です。たとえば、以下のような流れが考えられます。
質問には優先度を設定し、重要な質問から聞いていくと、取りこぼしが少なくなります。
また、進行中は適宜残り時間を確認し、質問の順序を変えたり場合によっては重要度の低い質問をスキップしたりといった調整を行いましょう。
導入事例インタビューの準備から実施・記事化・活用までを解説してきました。この記事を参考に、自社の魅力や強みが伝わる導入事例を制作し、営業活動やマーケティング成果の向上につなげましょう。
もし「自社で導入事例をうまく作れるか不安」「インタビューや記事化のリソースが足りない」といったお悩みがあれば、200本以上の導入事例制作実績があるTECH+までお気軽にご相談ください。取材・撮影・記事執筆・デザインまでワンストップで支援いたします。