【1】KPIとは
KPI(Key Performance Indicator)は重要業績評価指標で、目標達成の状況を定点観測するために使用します。目標値と現在値の差がある場合には、運営を見直していかなければいけません。
KPIは売上など財務指標として使用されるだけでなく、営業部門の商談化率や受注率など業務指標としても使用されます。
【2】SaaS事業がKPIを策定すべき理由
SaaS事業がKPI策定すべき理由は4つにあります。
1.ストック型ビジネスで成功させるため
SaaS事業はストック型ビジネスです。ストック型ビジネスとは、ソフトウェアなどのサービスを開発して定額料金で提供し、継続的に収益を得るビジネスモデルをいいます。
継続的に収益を改修するビジネスモデルのため、KPI管理することで、将来の売上を見通せるようになるのです。
例えば、月次経常収益が100万円で年間契約率が10%だとすると、次年度は90万円×12か月で1,080万円の年間経常収益が見込めるようになります。このように、計画を見据えて事業展開していくためにKPI管理を行います。
2.顧客動向に応じてサービス改善するため
SaaS事業は顧客と継続的に良好な関係を築いていかなければいけません。
なぜなら、サービスを利用して効果が見込めなければ、更新時に解約されてしまうためです。解約率が高ければ、サービスの開発費用など投資コストを回収できません。
このような場合にも、顧客生涯価値や解約率などをKPI管理しておくことで、サービス品質の良し悪しが判断できるようになります。
解約率が想像以上に高い場合は、カスタマーサクセス部門がお客様から不満点を聞き、サービスを改善していくなどの措置を講じていきます。
3.営業活動のプロセスを見直すため
SaaS事業では営業活動の分業化が進んでいます。「マーケティング部門」「インサイドセールス部門」「営業部門」「カスタマーサクセス部門」で営業活動を分業化する際に、数値で管理しておけば、どの業務に問題があるか見つけやすくなります。
営業活動を効率化して、少ないリソースで売上を伸ばすために、KPI管理が必要となるのです。
4.資金調達をしやすい状況にするため
SaaS事業を立ち上げる際に、個人投資家やベンチャーキャピタルから出資してもらおうと考える方もいます。このように投資家から出資を募る際にもKPIが必要です。
SaaS事業はサービスをリリースすれば、すぐに収益が見込めるというものではありません。
このような収益が見込めていないフェーズでも、リード獲得率などからビジネスの好不調が把握できるようになります。
KPIの数値で事業内容を説明すれば、ビジネスの可能性を感じてもらえ資金調達してもらいやすくなります。
SaaSの詳細はこちら!
【3】SaaS事業の収益を把握するためのKPIツリー
SaaS事業を立ち上げるにはKPI策定が重要だと理解できたと思いますが、代表的なKPIツリーには、どのようなものがあるのでしょうか?ここでは、収益を把握するために必要なKPIツリーと各項目について解説します。
1.MRR(月次経常収益)
MRRはMonthly Recurring Revenueの頭文字で「月次経常収益」を意味します。SaaS事業が毎月継続的に得られる売上です。
MRRは、「初期費用」「追加オプション」などの売上を含まずに計算します。
なぜなら、SaaSは経常収益を維持することが重要で、初期費用や追加オプションを含めると計算しにくくなるためです。
MRRの数値が高いほど、SaaS事業は安定していると判断されます。
※ARRはAnnual Recurring Revenueの頭文字で「年次経常収益」を意味し、年間で発生する売上を表します。
2.ARPA(顧客単価)
ARPAはAverage Revenue Per Accountの頭文字で「顧客単価」を意味します。1アカウントから得られる収益に用いられる指標です。
顧客単価=月次経常収益(MRR)÷総アカウント数で計算できます。
※企業に応じて、1アカウントの平均収益を表すARPU(Average Revenue Per User)が用いられることもあります。
3.CVR(顧客転換率)
CVRはConVersion Rateの頭文字で「Webサイト訪問者のお問い合わせした件数」を意味します。
SaaS事業の場合はリード獲得をCVに設定するケースが多いです。CVRは以下の計算式で算出できます。
CVR=CV数÷サイト訪問者数
CVは新規顧客からのものと、既存顧客のものがあります。CVRが低い場合はマーケティング施策を見直しましょう。
4.MQL(案件確度の高い見込み顧客)
MQLはMarketing Qualified Leadの頭文字で「マーケティング施策を通じて創出された案件確度の高い見込顧客」を指します。
リードを獲得できても、資料請求や会員登録してくれた見込み顧客が具体的に商品購入を検討しているとは限りません。
見込み顧客に架電しても対応に応じてもらえないなど、ターゲット対象外の顧客ではあることも多いです。
また、どのような顧客を見込み度が高いのかの基準を定めなければ、営業工数が増えてしまいます。
このような問題を防止するためにMQLを設定して数値を測定していきます。
5.SQL(受注確度の高い見込み顧客)
SQLはSales Qualified Leadの頭文字で「営業が選別した受注確度の高い見込顧客」を指します。
SQLを部門で共有しておくと、マネジャーは今月の売上がいくら達成するのか予想できるようになります。
SQLもMQL同様に、どのような顧客を受注確度の高い顧客とするのか明確に定めておきましょう。
6.Order rate(受注率)
Order rateとは「商談件数の中で契約に至った割合」をいいます。
例えば、商談件数が100件の営業担当者の受注率が1%であれば、毎月1件しか成約が取れません。
営業担当者に営業手法の質を上げてもらうために、受注率がKPIとして定められることもあります。
受注率の計算式は以下の通りです。
受注率=成約件数÷営業件数
受注率を測定すれば、営業担当者に実施している研修・教育が効果的であるかどうかを把握できるようになります。
7.NRS(顧客継続度)
NRSはNet Repeater Scoreの頭文字で「顧客継続度」を意味します。顧客がどれぐらいサービスの利用を継続したいと考えているかを示す指標です。
NRSの測定するためには、既存顧客にアンケート調査に協力してもらう必要があります。
「1年後もサービスを利用したいと思いますか」と質問して、1~5で評価してもらいましょう。
評価結果を参考にリピート率を考えていきます。
8.Churn Rate(解約率)
Churn Rateは「解約率」を意味します。
一定期間内に自社サービスを解約した人の割合を示します。
自社サービスの解約率が上がると売上が落ちるため、Churn Rateの状況はモニタリングして、高い数値が出たら顧客に不満点を聞いてサービスを改善していきましょう。
注目すべきChurn Rateですが、BtoBビジネスの場合は6%が目安となっています。
これよりも高い数値が出た場合は、顧客アンケートを実施してサービス改善していくようにしましょう。
チャーンレートの詳細はこちら!
【4】SaaS事業の採算を把握するためのKPIツリー
次に事業の採算を把握するためのKPIをご紹介します。上記のKPIツリーを理解しながら、どのような項目があるかを覚えていきましょう。
1.Unit Economics(事業の経済性)
Unit Economicsは、「1人の顧客の経済性」を意味します。顧客獲得コストと顧客獲得後の収益バランスが取れているかを把握するための指標です。
この指標のバランスが取れていると、どのくらいの投資をすればリターンが返ってくるのか、将来的な成長性が測定しやすくなります。そのため、投資家が投資判断する際にも注目されている指標です。
Unit Economicsは、以下の計算式で算出します
Unit Economics=LTV(顧客生涯価値)÷CAC(顧客獲得単価)
2.LTV(顧客生涯価値)
LTVとはLife Time Valueの頭文字で、「顧客生涯価値」を意味します。
つまり、顧客がサービスを利用開始してから解約までの期間にもたらす収益を表します。
LTVは以下の計算式で算出します。
LTV=顧客の平均単価÷チェーンレート(解約率)
つまり、サービスの解約率を下げることでLTVは向上します。
3.ARPA(顧客単価)
ARPAはAverage Revenue Per Accountの頭文字で「顧客単価」を意味します。1アカウントから得られる収益に用いられる指標です。
顧客単価=月次経常収益(MRR)÷総アカウント数で計算できます。
※企業に応じて、1アカウントの平均収益を表すARPU(Average Revenue Per User)が用いられることもあります。
4.Duration(継続期間)
Durationは顧客がサービスを契約して、どの程度の期間利用してくれているかの平均値を指します。
継続期間が低下した場合は、解約前に理由を聞いてサービスの改善を繰り返す必要があります。
5.Gross profit margin(粗利率)
Gross profit marginとは、売上から売上原価もしくは製造原価を差し引いた後に残る利益をいいます。
粗利率は売上原価と反比例しており、数値が高いほど優れた収益性があると判断できます。
粗利益が低い場合はサービスの開発費が高すぎる可能性があるなど、問題点を発見するキッカケとなる数値です。
また、粗利が高い場合はサービスに付加価値があり収益性があると判断できます。
そのため、粗利率もKPIとして設定されることが多いです。
6.CAC(顧客獲得単価)
CACとはCustomer Acquisition Costの頭文字を取った言葉で、顧客獲得単価を意味します。
分かりやすく説明すると、顧客を獲得するために必要な費用です。
SaaS事業では、見込み顧客を獲得するためにマーケティング施策を打ち出したり営業したりします。
CACの数値を管理すると、どのようなマーケティング手法、営業手法のコストパフォーマンスが良いか把握できるようになります。CACの計算方法は以下の通りです。
CAC=新規顧客獲得に必要な費用の合計÷新規顧客獲得件数
施策全体のCACと各施策のCACを把握するようにしましょう。
7.New Customers(新規顧客数)
New Customersは新規顧客数を意味します。毎月、どれぐらいの新規顧客が獲得できているかも管理しておきましょう。
なぜなら、既存顧客だけでビジネスを回していると、不測の事態で売上が低下してしまう恐れがあるためです。そのため、既存顧客と取引しながら新規顧客を獲得していかなければいけません。
新規顧客数を管理しておけば、マーケティング施策が上手くいっているかどうかが判断できるようになります。新規顧客数が減少してきたら、「施策が時代遅れになっていないか?」「競合他社が出てきていないか?」など原因を探求して、別の施策を打ちだしましょう。
【5】SaaS事業を立ちあげる際におすすめの書籍
SaaS事業のKPIツリーにはさまざまな種類があります。
収益性を把握するためのKPIツリーや採算性を把握するためのKPIツリーをご紹介しましたが、さまざまな種類のKPIツリーがあります。
そのため、SaaS事業を立ち上げる際には、どのようにKPIを策定すべきか学習しましょう。
ここでは、SaaS事業を立ち上げる際におすすめの書籍をご紹介します。
1.ALL for SaaS [SaaS立ち上げのすべて]
出典元:『翔泳社』
ALL for SaaSはfreee株式会社のプロダクトマネージャーである宮田善孝氏がまとめたSaaS事業の立ち上げ方をまとめた書籍です。
SaaS事業に取り組む企業は増えているが、立ち上げ方は各社が手探りで推進している現状を打破すべく、羅針盤となる書籍を発売しました。
本書ではSaaSの立ち上げを4つフェーズ(事前準備、調査、開発、市場開拓)に分けて説明しています。現場の声が反映されている書籍のため、具体的なSaaSの立ち上げ方が分かりやすく解説されていると高い評価を受けている書籍です。
2.最高の結果を出すKPIマネジメント
出典元:『フォレスト出版』
最高の結果を出すKPIマネジメントは、「今までで一番わかりやすいKPI解説本!」と評価されて累計発行部数5万部を突破した書籍です。
元リクルート社員で、株式会社LIFULLや株式会社旅工房など数々の企業の取締役を兼務する中尾隆一郎氏が執筆しています。
この書籍を読めば、KPI策定方法とかKPI改善方法まで理解できるようになります。
第1章では、KPIとは何かの基本から踏み込んでいるため、初学者でも理解できるようになっているKPI解説本として鉄板の書籍です。
3.人と組織を効果的に動かす KPIマネジメント
出典元:『楠本 和矢 公式サイト』
人と組織を効果的に動かす KPIマネジメントは、KPIを経営目標の指標と捉えるだけでなく、組織を動かす指標として活用する方法まで解説されている書籍です。
書籍は事業拡大の中核を担っているリーダー向けに書かれています。
本書では、組織を動かすためにKPIが非常に有効なツールである理由や、どのように利用していくかまで具体的に記載されています。
この書籍は、新卒で総合商社の丸紅に入社して新規事業開発を担当して成功を収め、博報堂ではビジネス研修講師を務める、HR Design Lab代表の楠本和矢氏によって書かれています。
そのため、KPIについて理解を深め、チームを統率していきたいと考えている方におすすめです。
4.現場のプロが教えるBtoBマーケティングの基礎知識
出典元:『マイナビ出版』
現場のプロが教えるBtoBマーケティングの基礎知識は、最前線で活躍する実務家10名により執筆されたマーケティングの基本書です。
株式会社ベーシック様や株式会社ラクス様、ナイル株式会社様などマーケティング業界で活躍されている方が体験談や知識を提供しています。
本書では、BtoBビジネスの基本から戦略の立案方法、施策まで解説しています。また、広告施策の改善をするためのマーケティングKPIの作り方まで解説しているため、マーケティングを極めたい方におすすめの一冊です。
5.THE MODEL
出典元:『翔泳社』
THE MODELは全世界15万社に選ばれている営業支援ツールSalesforceを提供しているセールスフォース・ドットコム社の営業手法がまとめられた書籍です。
SaaS事業では、営業活動を「マーケティング部門」「インサイドセールス部門」「営業部門」「カスタマーサクセス部門」と分業化することが多いです。
このように営業の分業化をする際に、どのように目標管理して組織を動かすかがまとめられています。
THE MODELはSaaS事業の抜本的な営業プロセスの改善ができるノウハウ本として高く評価されています。そのため、営業プロセスを見直したい方におすすめの書籍です。
【6】まとめ
SaaS事業を運営する際にはKPIを策定して、目標通りに事業が動いているか、どこに課題があるかを可視化しましょう。
KPI管理を行えば、どこに課題があるかを把握できて、サービス改善できるためストック型ビジネスが成功しやすくなります。
また、個人投資家やベンチャーキャピタルもKPIの指標を参考に投資をします。そのため、KPIの指標について理解を深めておき、数値を管理できていれば資金調達しやすくなるでしょう。
今回は、SaaS事業のKPIツリーと項目について解説しました。また、SaaS事業を立ち上げる際に役立つおすすめの書籍をご紹介しました、ぜひ、この記事を参考にしながら、SaaS事業を立ち上げてみてください。