【1】カスタマージャーニーマップとは
出典元:『Rail Europe Experience Map』
カスタマージャーニーマップとは、顧客が商品・サービスの存在を知ってから購入に至るまでのプロセスを時系列でまとめた図をいいます。
横軸には「認知」「理解」「検討」「商談」などの購買プロセスの各ステージをまとめて、縦軸には「顧客心理・顧客行動」「タッチポイント」「課題・要望」「具体的な施策」をまとめます。
Web広告やSNS広告など複数の広告を絡めた施策を打つときに、情報整理を兼ねて作成するものです。
カスタマージャーニーマップは1998年頃から使用されていました。2017年にマーケティングの神様と呼ばれるフィリップ・コトラー氏が著書「マーケティング4.0」でカスタマージャーニーマップを紹介して大きな注目を浴びました。
【2】カスタマージャーニーマップの必要性
顧客が商品・サービスの存在を知ってから購入に至るまでのプロセスを時系列にまとめたカスタマージャーニーマップは、なぜ作成するのでしょうか?次にカスタマージャーニーマップの必要性をご紹介します。
1.顧客目線で物事を考えられる
カスタマージャーニーマップを作成することにより、顧客が抱える悩みや不満に気づけます。
一般的にビジネスでは売り手目線で物事を考えがちです。顧客の行動・感情・思考を理解するのは難しく「わかったつもり」になってしまうケースが多いです。
しかし、カスタマージャーニーマップは買い手目線で作成していくため、新たな顧客ニーズを発見できます。顧客にアンケート調査を行えば、具体的にニーズが把握できます。顧客ニーズに合わせてサービス改善やマーケティング施策を改善すれば、商品の売上を伸ばしていけるのです。
どのタイミングで、どのようなマーケティング施策をすべきか的確に判断できるようになります。
顧客体験の質が向上する
カスタマージャーニーマップを作成すれば、顧客目線で考えたマーケティング施策が打てるようになります。そのため、最適なタイミングを見極めて適切なアプローチができるようになります。
[テレワーク監視ツール販売会社の場合]
- ニーズ把握:テレワーク中のサボリの実態について解説する
- サービス認知:テレワークのサボりに関する悩みを解決した事例を紹介する
- 比較・検討:テレワーク監視ツールの体験会を開催して操作してもらう
- 購入:キャンペーンを企画してテレワーク監視ツールを導入してもらう
- 利用:テレワーク監視ツールの利用で迷わないようにQAサイトを立ち上げる
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上記のような施策を打てば、顧客は各段階で求めている情報をタイミングよく入手できて、提供事業者に好感を持ち安心してテレワーク監視ツールが利用できます。このように顧客目線を大切にしたマーケティング施策を打てば、顧客体験の質が向上できます。それだけでなく、自社ブランドの価値も上げられるのです。
2.チーム全体で共通認識が持てる
カスタマージャーニーマップを作成して顧客の購買プロセスが視覚的に分かるようになれば、チーム全体で共通認識が持てるようになります。大企業の場合はマーケティング施策別に担当者が配属されていることも多いです。このような状態で各施策を実行すると、ターゲット顧客がブレてしまい、一貫性のあるメッセージが配信できなくなります。
この問題は、カスタマージャーニーマップを作成して共通認識できる状態にすることで解決できます。顧客がどのようなプロセスでサービスを購入するのか適切にマネジメントができるようになるため、チーム連携がしやすくなるのです。
企業の中にはマーケティング施策を支援会社にお任せしているところもあるでしょう。外部の人との連携もカスタマージャーニーマップを用意しておくと認識ズレが起きにくくなります。
【3】カスタマージャーニーマップの作り方
カスタマージャーニーマップを作成する手順は以下の通りです。
- 目的を定める
- ペルソナを設定する
- 横軸に購買プロセスのステージを書く
- 縦軸にペルソナの行動・心理・思考を書く
- タッチポイントを書く
- マーケティング施策を書く
ここでは、それぞれの手順について詳しく解説します。
1.目的を定める
まずは、カスタマージャーニーマップを作成する目的を定めてください。その理由は、目的を設定しないと着地点が曖昧となり無意味なカスタマージャーニーマップになるためです。他社もカスタマージャーニーマップを用意しているからと安易な気持ちで作成するものではありません。最初に、以下のようなカスタマージャーニーマップの目的を定めておきましょう。
■カスタマージャーニーの目的
短期的目標
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- 新たな顧客層に訴求する
- トライアル体験率を高める
- お問い合わせ獲得件数を増やす
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中長期的目標
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- 既存顧客の継続利用率を高める
- 顧客育成に最適なコンテンツを作成する
- エンゲージメントを高めて顧客と良好な関係を維持する
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ブランド価値の向上
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競合戦略
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2.ペルソナを設定する
次にペルソナを設定します。ペルソナとはサービスを提供したい顧客モデルです。BtoBマーケティングのペルソナは「企業」と「担当者」の2つのペルソナを掛け合わせた形式で設定していきます。
ペルソナを設定する場合は、可能な限り実在していそうな顧客モデルを描くようにしましょう。なぜなら、実在していそうな顧客モデルを描くと、的確なマーケティング施策が打ちやすくなるためです。そのため、下記の作成例を参考に具体的なペルソナを設定してみてください。
■ペルソナの作成の例
企業
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会社名
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株式会社テックプラス
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規模
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売上100億円
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業種
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システム開発会社
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抱えている課題
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リモートワークを導入後にプロセス型の人事評価ができなくなった
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部門
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体制
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システム開発部門
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業務
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お客様先のシステムを開発している
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担当者
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名前
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田中 太郎
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性別
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男性
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年齢
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35歳
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所属部門
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システム開発部門
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役職
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課長
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決裁権
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有
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ペルソナの詳細はこちら!
3.横軸に購買プロセスのステージを書く
ペルソナを設定したら、カスタマージャーニーを作成していきます。
まずは、横軸に購買プロセスのステージを書いていきます。購買プロセスのステージを書くためにスタートとゴールを定めましょう。例えば、「契約」がゴールの場合もあれば「継続利用」がゴールの場合もあります。
[購買プロセスのステージ]
- ニーズ把握:悩みを解決するためには、どのような手段があるかを模索している
- サービス認知:悩みを解決するための具体的な解決策を模索している
- 比較・検討:悩みを解決できるサービスを比較・検討している
- 購入:悩みを解決するためにサービスを購入している
- 利用:サービスを利用して悩みを解決しようとしている
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4.縦軸にペルソナの行動・心理・思考を書く
次に縦軸に、ステージ別のペルソナの行動・心理・思考を書いていきます。自分だけではペルソナ像がブレてしまう恐れがあるため、以下の方法でペルソナの行動・心理・思考をまとめていきましょう。
■ブレーンストーミング
他部門の人にも協力してもらってブレーンストーミング(時間内で自由に話し合ってアイデアを出す立案企画の手法)でペルソナの行動・心理・思考を洗い出しておきましょう。
ペルソナの心理に関してはポジティブ、ネガティブの両方の感情をまとめます。ネガティブな感情は「本当は顧客はこのように思っているのではないか?」と仮説を立てしてみることが大切です。
■自社データの分析
自社に蓄積されたデータを分析すると、より具体的なペルソナの行動・心理・思考がまとめられるようになります。
どのような顧客が契約に至っているのかを分析できれば、どういうニーズがあるか把握できるためです。
そのため、自社サービスを求めている顧客の属性などを知りたい場合は、自社データを分析して解読しましょう。
■アンケート調査
ペルソナの精度を上げたい場合は+アンケート調査を実施しましょう。ペルソナの行動・心理・思考を洗い出すことで、どのようなマーケティング施策を打てば良いか決められるようになります。
5.縦軸に顧客接点(タッチポイント)を書く
次に縦軸に顧客接点(タッチポイント)を書いていきます。顧客接点とは、購買プロセス上の顧客と企業の接点をいいます。
具体的に説明すると「交通広告でサービスを目にした」「SNSでサービスの口コミを見て興味を持った」などが顧客接点です。
顧客接点には、さまざまな種類があります。
時系列
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オフライン
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オンライン
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購入前
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- テレビCM
- パンフレット
- 交通広告
- チラシ
- 雑誌広告
- 口コミ
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- Webサイト
- オウンドメディア
- 口コミサイト
- ブログ
- SNS
- ウェビナー
- オンライン商談
- チャット
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購入時
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購入後
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上記の表を参考にしながら、自社がどのような顧客接点を持っているかを把握しましょう。自社にない顧客接点を把握しておけば、どこでユーザー離脱が起きるかも予測しやすくなります。
6.マーケティング施策を書く
最後に横軸と縦軸を見ながら、最適なマーケティング施策を書き込んでいきます。
例えば、リモートワークを導入したいけれど導入方法が分からないという認知フェーズの顧客には、リモートワークの始め方などのコンテンツを作成して教えてあげるのが効果的です。
自社に合ったリモートワークはどれだろうかと悩んでいる顧客には、同業他社のリモートワーク事例を公開してあげると喜ばれるでしょう。このように、縦軸と横軸を見ながらマーケティング施策を考えていきます。
【4】カスタマージャーニーマップを作成する上での注意点
カスタマージャーニーマップの作成方法をご紹介しましたが、気をつけなければいけないこともあります。ここでは、カスタマージャーニーマップを作成する上での注意点をご紹介します。
1.複数名でカスタマージャーニーマップを作成する
カスタマージャーニーマップを作成する場合は、主観が入らないように複数名で意見を出し合いましょう。
1人でカスタマージャーニーマップを作成すると主観が入り、効果が見込めないものになってしまいます。このようなトラブルを防止するために、複数名が参加してブレーンストーミング方式で意見を出し合いましょう。
カスタマージャーニーマップを作成する場合は、営業部門やカスタマーサクセス部門など他部署の人にも参加してもらうと、マーケティング部門と異なる意見が聞き出せます。また、幅広い世代の人を集めると、さまざまな意見を聞き出すことができます。
2.企業側の憶測だけで作り上げない
カスタマージャーニーマップを作成する目的は顧客ニーズを把握するためです。
ユーザーに対して先入観を持ち「このようなサービスが響くに違いない」と憶測で判断して、カスタマージャーニーマップの作成に失敗する人もいます。
このような失敗をしないためにも、可能であれば対象者となる人にアンケート調査を実施して、具体的な顧客ニーズを把握するようにしましょう。
もし、アンケート調査の実施が難しい場合は、営業部門やカスタマーサクセス部門など、日頃からお客様と接している人に聞いてみましょう。
3.定期的にカスタマージャーニーマップを見直す
カスタマージャーニーマップを作成してマーケティング施策を実行したら、想定通りの結果が得られたか確認してください。購買プロセスがズレていたら、カスタマージャーニーマップを修正しましょう。
顧客の購買プロセスは変化をするため、1年後にカスタマージャーニーマップが通用するとは限りません。
顧客の行動や心理を深く観察して、カスタマージャーニーマップを更新していくようにしましょう。
常に更新したカスタマージャーニーマップを所持しておけば、顧客ニーズをチーム全体で共有できて、効果的なマーケティング施策が実行できるようになります。
【5】カスタマージャーニーマップ関連ツール3選
デジタル技術の発展により、カスタマージャーニーマップ作成や有効なマーケティング施策を選定できるツールが提供され始めました。ユーザーの行動データを抽出できて分析できるツールや、カスタマージャーニーマップ作成を効率化できるツールなど、さまざまな種類があります。そのため、自社に見合うものを選んでみてください。
Lucidchart
出典元:『Lucidchart』
Lucidchartは、アイデアを図にできるアプリケーションです。
複雑な購買プロセスを図式化したカスタマージャーニーマップも簡単に作成できます。
ツールにサクセスすればチーム全員でデータ共有できて、リアルタイムに編集することも可能です。そのため、マーケティング施策の会議が捗ります。
テンプレートを使用すれば、ゼロからカスタマージャーニーマップを作成する必要もありません。そのため、カスタマージャーニーマップの作成を効率化したい方におすすめのデジタルツールです。
Canva
出典元:『Canva』
Canvaは61満点のテンプレートと1億点の素材(写真・動画・イラスト・音楽)が用意されているグラフィックデザインツールです。
カスタマージャーニーマップのテンプレートも数多く用意されているため、ダウンロードして編集すれば、誰でも簡単に作成できます。
それだけでなく、共同編集もできるため、マーケティング施策の会議などで使用すれば打ち合わせを円滑に進められます。
テンプレートは無料ものも用意されているため、お金をかけずに使用できるデジタルツールを探している方におすすめです。
KARTE
出典元:『KARTE』
KARUTEは各チャネルでバラバラに管理されているユーザーデータを一元管理して、顧客ニーズを発見し、マーケティング施策を打つための施策支援ツールです。
各ユーザーが、どのようなデバイスで情報収集していて、どのような行動履歴を取り購買に至っているかを可視化できます。そのため、データを根拠に正確なカスタマージャーニーマップが作成できるようになります。
それだけでなく、KARTEはノーコードでWebサイトを制作・更新することも可能です。そのため、カスタマージャーニーマップを参考にしながら、サイト改修やメルマガ配信などのマーケティング施策が打てます。
このような便利な機能が搭載されているため、顧客に寄り添ったマーケティング施策を打ちたいという方におすすめのデジタルツールです。
【6】カスタマージャーニーマップの活用事例
カスタマージャーニーマップについて説明してきましたが、具体的にどのように活用されているのでしょうか?最後に、カスタマージャーニーマップの活用事例をご紹介します。
スタイリングライフ・ホールディングス
出典元:『スタイリングライフ・ホールディングス』
スタイリングライフ・ホールディングスはコスメや生活雑貨の専門店「PLAZA(プラザ)」を運営している会社です。メイン顧客は10代から20代のZ世代となっており、若物の集客に注力しています。
2022年末には、クリスマスプロモーションで女性向けメディア「Sucle(シュクレ)」とコラボレーション施策を実施しZ世代の集客強化に成功しました。同社がZ世代の集客に成功した理由は、Z世代の購買プロセスを徹底的に調査したことです。
「鏡越しに写真を撮るのが流行している」「大きなショッピングカートがインスタ映えする」「フォトショップでは自分の足だけを映す」などZ世代のリアリティを聞き出し、店舗商品の存在を知り店舗に来るまでの流れをカスタマージャーニーマップで作成しました。
カスタマージャーニーマップに従って店舗レイアウトやマーケティング施策を打つことで、Z世代の集客に成功ました。
株式会社セブン銀行
出典元:『株式会社セブン銀行』
株式会社セブン銀行は、大手流通企業グループ「セブン&アイ・ホールディングス」傘下の銀行です。銀行専用の店舗を設けないという特性上、顧客接点が少ないという課題を抱えていました。
また、お客様に接客する機会が少ないため、顧客ニーズが把握しにくいという課題も抱えていたのです。
このような課題を解決するために、デジタルツールKARTEを導入して顧客情報を収集しました。そして月1回、定例ミーティングを開き、カスタマージャーニーマップで顧客の購買プロセスを認識し合う場を設け、どのような施策を打ち出すかを考えています。
デジタルツールでお客様の購買に至るまでのデータを収集し、カスタマージャーニーマップで購買プロセスを把握することで、どのような施策が効果的なのか判断しやすくなりました。同社はこのような取り組みで、顧客体験を向上されています。
VANS
出典元:『VANS』
VANSはアメリカに本社を持つアパレル製品ブランドです。同社は顧客ロイヤルを高めるために「VANS Family」と呼ぶプログラムを用意しており、2年間で会員数は1,200万人を突破しました。
同社が会員数を増やせた理由は、データを活用した顧客理解と顧客ニーズを把握した上でのマーケティング施策、多様なベネフィットの提供をしたためです。
データで得た顧客ニーズに沿って、新たなコンテンツを提供しているため、会員が定着しているのです。また、アーティストとのコラボレーションスニーカーをプレゼントなどのキャンペーン企画を打つなど、顧客を飽きさせない工夫がされています。
【7】まとめ
カスタマージャーニーマップは、顧客の購買プロセスを表した図です。カスタマージャーニーマップを作成すれば、顧客ニーズを理解できて、最適なマーケティング施策が打てます。
顧客体験の質が上げられるなどの効果が見込めるため、マーケティング施策を打つ前にカスタマージャーニーマップを作成する企業が増えてきました。
この記事では、カスタマージャーニーマップの作成方法をご紹介しました。正しい手順を覚えておけば、誰でも簡単にカスタマージャーニーマップは作成できます。
この記事では、カスタマージャーニーマップ作成業務を効率化したり、精度を上げられたりするデジタルツールもご紹介しましたぜひ、この記事を参考にしながら、マーケティング施策を打ち出してみてください。