【1】pest分析とは
pest分析とは「政治(Politics)」「経済(Economics)」「社会(Society)」「技術(Technology)」の4つの視点でマクロ環境を分析するワークフレームです。
マクロ環境とは、企業がコントロールできない外部環境を指します。
5年後10年後と中長期の視点で「ビジネス機会が得られるのか?」「脅威となりそうなものはないか?」を見極めなければなりません。マクロ環境を正確に把握するためにpest分析を活用します。
項目
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調査内容
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政治(Politics)
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法規制・規制緩和・国の制作・税制の見直し・政府の動向など
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経済(Economics)
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景気、インフレやデフレの進行、為替、金利など
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社会(Society)
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人口動態、世帯数、世論や社会の意識、教育など
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技術(Technology)
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技術革新、特許、企業の投資動向など
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pest分析の目的
pest分析の目的は、マクロ環境を分析して世の中の流れを掴むことです。
どのようなビジネスでも外部環境の影響を受けます。そのため、外部環境を分析して将来の市場変化を予測した上で戦略を策定することが大切です。
とくにマクロ環境は、企業が努力してもコントロールできるものではありません。そのため、pest分析を行い、自社にとって脅威や機会となるものを発見し戦略を策定する必要があります。
下記の記事で、マーケティングフレームワークについて詳しく解説しています。
・【テンプレ付き】マーケティングフレームワークとは?代表的な16種類と選び方を解説!
【2】pest分析の4要素

pest分析は「政治(Politics)」「経済(Economics)」「社会(Society)」「技術(Technology)」の4つの視点で外部環境を分析します。ここでは、各要素の意味と分析項目をご紹介します。
1.政治(Politics)
政治(Politics)とは、政策や法律、税制などの観点から影響を及ぼすものを特定することをいいます。
例えば、電子帳簿保存法の改正により取引データの保存が義務化されて、SaaS企業は追い風を受けました。一方で税理士事務所は事務負担が重くなるなど向かい風に打たれることになりました。このように、政策や法律、税制などの観点から、自社に影響を及ぼすものを特定することで、どう対抗すべきか考えられるようになります。
<分析項目>
法規制・規制緩和・国の制作・税制の見直し・政府の動向など
2.経済(Economics)
経済(Economics)とは、経済動向で、自社がどのような影響を受けるかを特定することをいいます。
例えば、円安により仕入コストが高騰した場合は利益が出にくくなるため、価格は据え置きにして量を減らしたり、商品の価格を値上げしたりなど工夫しなければなりません。 このように為替変動で大打撃を受けるなどのことがないよう、経済動向にも注目をしておくことが大切です。
<分析項目>
景気、インフレやデフレの進行、為替、金利など
3.社会(Society)
社会(Society)とは、消費者のライフスタイルの変化、トレンドの変化が自社に影響を及ぼさないか特定することをいいます。
例えば、共働き世帯が増加して家事代行サービスの市場規模が急成長しています。 多忙なビジネスパーソンは動画配信サービスを契約しておりTVは視聴率低下とダメージを受けている状況です。 このように、ビジネス機会や脅威を発見するためにも、消費者のライフスタイルの変化やトレンド変化はキャッチしておくようにしましょう。
<分析項目>
人口動態、世帯数、世論や社会の意識、教育など
4.技術(Technology)
技術(Technology)とは、新たな技術が自社に影響を及ぼさないかを特定することをいいます。これから、どのような技術が登場するかを把握することで出遅れずに済みます。最先端テクノロジーを取り入れてイノベーションを創出することも可能です。
新たな技術に乗り遅れてしまうと競争力が低下してしまうため、技術の動向に目を向けておきましょう。
<分析項目>
技術革新、特許、企業の投資動向など
【3】pest分析のやり方

pest分析は6STEPで行います。
- 目的を明確にする
- 情報を収集する
- 4要素に分類する
- 事実と解釈を分類する
- 機会と脅威に分類する
- 事業戦略に反映する
ここでは、各手順について詳しく解説します。
1.目的を明確にする
まずは、pest分析の目的を明確化します。
pest分析の目的を明確にすることで、チーム全体でどのような情報を収集すべきか共通認識が持てるようになります。繰り返しになりますが、
- 市場の変化を把握して戦略に反映する
- 市場とターゲットを見直す
- 競合他社との差別化をするためのヒントを得る
- 新規事業や新商品開発のヒントを得る
などが目的となります。
今回の事例では「市場の変化を把握した上でECサイト戦略に反映する」を目的とします。
2.情報を収集する
次に情報収集を行います。
国の各種統計データやシンクタンクの調査レポート、報道機関の記事などから情報収集しましょう。今回は市場の変化を把握してECサイト戦略に反映することを目的としているため、次のような情報を収集していきます。
- クッキー規制強化でECサイト運用はどのように変化してきているのか?
- 越境ECを行う場合は、どのような国際取引規制を遵守すべきか?
- 配送コストの高騰はどれぐらいなのだろうか?
- 消費者の購買行動は、どのように変化してきているのか?
- AIを活用したマーケティングとは、どのようなものがあるのか?
3.4要素に分類する
情報収集後に「政治(Politics)」「経済(Economics)」「社会(Society)」「技術(Technology)」の4つに分類します。
政治(Politics)
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- GDPRやCCPAにより、顧客データの取得や管理が厳格化されている
- クッキー規制の強化により、リターゲティングが行いづらくなっている
- 海外に商品を配送する場合、関税や輸入規制の影響を受ける可能性がある
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経済(Economics)
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- 景気が悪いためディスカウント商品の需要が伸びる
- 物価高騰により配送料金が高騰している
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社会(Society)
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- 消費者のサステナビリティ意識が向上している
- Z世代やミレニアム世代の購買行動が変化している
- 体験型サービスの売れ行きが良い
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技術(Technology)
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- AIを活用したパーソナライズレコメンドが重要となる
- チャットボットでカスタマーサポート強化が主流になる
- ARやVRによりショッピング体験を提供している企業も存在する
- ブロックチェーン技術を活用したトレーサビリティに注目が集まる
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4.事実と解釈を分類する
pestの4要素に情報を分類したら解釈が含まれていないかを精査します。
そのために、事実と解釈の違いを確認しておきましょう。
事実とは、実際に起こった事柄をいいます。一方で、解釈は主観や自分なりの理解をいいます。
外部環境を分析する上で、事実と解釈を混合してしまうと分析結果が狂ってしまいかねません。そのため事実のみにそぎ落としていきましょう。
5.機会と脅威に分類する
次に、収集した情報を機会と脅威に分類します。
機会とは、自社にとってビジネスチャンスとなるような環境変化をいいます。例えば、AIやチャットボットなどテクノロジーについて深い知見を持っている場合、より良い顧客体験を提供することができるでしょう。
その一方で、脅威とは自社では太刀打ちできない環境変化をいいます。例えば、物価高騰により配送コストが高騰していてオンラインショップを立ち上げても利益が見込めないかもしれません。
機会と脅威に分類する際は、自社にとって機会となるか脅威となるかを考えることが大切です。他社には機会になるこでも自社にとって脅威となることもあるため注意してください。
6.事業戦略に反映する
最後に事業戦略に落とし込んでいきます。
政治(Politics)
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- クッキー規制強化のため、ファーストパーティデータを活用した施策を打つ
- 超境ECを展開する場合は、関税や国際規制を事前に調査する
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経済(Economics)
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- 配送料を安く抑えるため物流会社を見直す
- サブスクリプション型ビジネスモデルを考案する
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社会(Society)
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- 環境に配慮した商品を取り扱う
- SNSマーケティングを強化する(キャンペーン企画やインフルエンサーマーケティング)
- ライブコマースを導入して商品を販売する
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技術(Technology)
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- AIを活用したレコメンドエンジンを導入する
- AR/VRを活用したバーチャル試着体験を提供する
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【4】pest分析の注意点
pest分析を行う際は3つの点に注意してください。
1.pest分析を目的としない
pest分析でマクロ環境を把握することに夢中になると、マーケティング戦略に落とし込み、実行に移すというステップが疎かになりがちです。
pest分析はマーケティング戦略プロセスの一部のため、分析結果から戦略、実行計画に結び付けることが重要です。
pest分析に夢中になり過ぎて、実行に移すことを忘れてしまうと、意味のないことになってしまいます。そのため、pest分析を目的としないように気をつけましょう。
2.短期的な計画には向いていない
pest分析は短期的な計画には向きません。
なぜなら「政治」「経済」「社会」「技術」は短期間で変動することが少ないためです。
そのため、3年後や5年後に向けたマーケティング戦略などを練る際の判断材料にすると良いです。来月の事業計画に役立てるなどの場合にはpest分析は向きません。そのため、中長期の戦略や計画を立てる際にpest分析を利用するようにしましょう。
3.内部環境は分析できない
pest分析はマクロ環境分析に特化したフレームワークです。
外部環境の要素に焦点を充てているため、内部環境の分析はできません。
そのため、自社の強みや弱みを把握して、マーケティング戦略を立てたい場合は3C分析やSWOT分析を活用するようにしましょう。
【5】pest分析の活用事例
pest分析のやり方をご紹介しましたが、有名企業を題材にして実際に分析してみましょう。マイナビTECH+が有名企業をpest分析してみましたので、ぜひ一緒に取り組んでみてください。
1.スターバックス

出典元:『スターバックス』
スターバックスは世界62ヵ国、2万店舗以上ある世界最大級のコーヒーチェーン店です。同社は世界各国に進出する際に外部環境を分析して事業戦略を立てていることがわかります。
政治(Politics)
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外資企業規制が緩やかな国から進出を決めた
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経済(Economics)
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プレミアムコーヒーブランドが支持される富裕層・中間層が多い国に進出を決めた
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社会(Society)
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サードプレイスのコンセプトが、人々のライフスタイルにマッチすると判断した
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技術(Technology)
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モバイル決済やロイヤルプログラムで顧客エンゲージメントを高めた
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2.Netflix

出典元:『Netflix』
Netflixは6年連続売上首位を記録している動画配信サービスです。世界各国の人に動画配信サービスを利用してもらうために工夫していることが、pest分析でわかります。
政治(Politics)
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一部の国ではコンテンツ規制が厳しいためローカライズをした
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経済(Economics)
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インドやブラジル向けに低価格プランを作成した
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社会(Society)
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各国の人が楽しめるようなオリジナルコンテンツを作成している
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技術(Technology)
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AIでパーソナライズ化して、映画視聴機会を増加させた
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【6】pest分析以外の代表的なフレームワーク
pest分析はマクロ環境の分析に特化したフレームワークです。マーケティング戦略を立てる際には、さまざまなフレームワークを使用します。
環境分析
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マクロ環境分析
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pest分析
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ミクロ環境分析
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5フォース分析
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業界環境分析
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3C分析
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戦略立案
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SWOT分析
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基本戦略
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市場選定、ポジション確立
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STP分析
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マーケティングミックス
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マーケティング施策立案
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4P、4C
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戦略を立てられるように、代表的なフレームワークについても理解を深めておきましょう。
(1)5フォース分析
5フォース分析とは、ミクロ環境分析に特化したフレームワークです。
5つの視点で環境を分析して、自社に影響を及ぼすものがないかを特定していきます。
ミクロ環境とは市場規模や顧客の動向、競合の動向など環境を指します。ミクロ環境分析で発見した機会や脅威などは、自社の努力次第でコントロールすることが可能です。そのため、対抗する方法を考えていきましょう。
業界内の競合他社
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代替品の脅威
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- 代替品の性能
- 代替品の価格
- 川下統合
- スイッチング・コストなど
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新規参入者の脅威
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- 参入障壁の高さ
- 新規参入コスト
- 参入制限の有無など
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買い手の交渉力
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売り手の交渉力
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5フォース分析についてはこちら!
下記の記事で5フォース分析について詳しく解説しています。
・5フォース分析とは?目的やメリット、やり方を解説!
(2)3C分析
3C分析は業界分析に特化したフレームワークです。「市場・顧客(Customer)」「競合(Competitor)」「自社(Company)」の3つを分析します。
3C分析を行うことで、競合他社と自社の違いを把握できるようになります。また、顧客が求めているけれど競合他社が提供できておらず、自社なら提供できる強み(自社優位性)を発見できます。
顧客(Customer)
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競合他社(Competitor)
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自社(Competitor)
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下記の記事で3C分析について詳しく解説しています。
・3C分析とは?目的ややり方を徹底解説【マーケティングの基本】
(3)SWOT分析
SWOT分析は自社の現状を把握して戦略を立案するためのフレームワークです。「強み(Strength)」「強み(Weakness)」「機会(Opportunity)」「脅威(Threat)」を分析していきます。
- 強み(Strength):自社が競合他社より優れている点を洗い出す
- 弱み(Weakness):自社が競合他社より劣っている点を洗い出す
- 機会(Opportunity):自社にとってプラスに働く要因を洗い出す
- 脅威(Threat):自社が太刀打ちできない悪影響を及ぼす要因を洗い出す
SWOT分析で、自社の現状を把握することでマーケティング施策を立案しやすくなります。
下記の記事でSWOT分析について詳しく解説しています。
・SWOT分析とは?脅威・機会・弱み・強みの要素から戦略を練る方法を解説
(4)STP分析
STP分析とは、どの市場を狙いターゲットとするかを決めるためのフレームワークです。
「Segmentation(セグメンテーション)」「Targeting(ターゲティング)」「Positioning(ポジショニング)」を考えていきます。
- Segmentation(セグメンテーション):市場を把握して細分化する
- Targeting(ターゲティング):細分化した市場のどこを狙うかを考える
- Positioning(ポジショニング):狙う市場での自社のポジションを確立する
ビジネス競争が激化しているため、どの市場を狙うか決めて、自社の強みを活かした戦略を立てるためにSTP分析を行います。。
下記の記事でSTP分析について詳しく解説しています。
・STP分析とは?自社の強みや立ち位置を分析する方法を解説
(5)4P
4Pとは企業視点で商品やサービスの販売方法を検討するためのフレームワークです。どうすれば、利益を確保できるかを考えます。
- Product(製品):お客様に対して、どのような価値を提供するか?
- Price(価格):利益を確保するために、どれぐらいの価格を設定するか?
- Promotion(プロモーション):どのようにプロモーションするか?
- Place(流通):どのように販売するか?
下記の記事で4P分析について詳しく解説しています。
・4P分析とは?意味や目的、使い方まで紹介【具体例の解説付き】
(6)4C
4C分析とは顧客視点で商品やサービスの販売方法を検討するためのフレームワークです。どうすれば、顧客は納得して商品を購入してくれるのかを考えます。
- Customer Value(顧客価値):顧客に価値を感じてもらえるか?
- Cost(価格):顧客が納得する価格であるか?
- Convenience(利便性):顧客が商品・サービスを購入しやすいか?
- Communication(コミュニケーションのとりやすさ):商品やサービスに関する情報を収集しやすいか?
下記の記事で4C分析について詳しく解説しています。
・4C分析とは?目的やメリット、やり方を具体例を交えて解説!
【7】まとめ
pest分析とは「政治(Politics)」「経済(Economics)」「社会(Society)」「技術(Technology)」の4つの視点で外部環境(マクロ環境)を分析するワークフレームです。
どのようなビジネスでも外部環境の影響を受けます。そのため、将来の市場変化を予測した上で戦略を策定することが大切です。時代の流れに合った戦略を練るための土台を作るためにpest分析してみましょう。
この記事では、マーケティグ戦略プロセス上の代表的なフレームワークも一緒にご紹介しました。そのため、これを機会にマーケティング戦略の見直しをしてみてください。
もし、自社でマーケティング戦略を練っており成果が出ないとお悩みを抱えた場合はマイナビTECH+までご相談ください。マイナビTECH+ではBtoBマーケティング支援サービスを提供しています。マーケティング戦略のご提案もしているため、ご興味がある方はぜひお問い合わせください。